無機質なふたり


○駅(遠景・夜・冬)
   駅ビル。
   多くの人が行き交う大きな駅。
○駅ビル・中
   駅と駅との通路。4.5組の少年たちの
   グループが歌を歌ったり、ダンスを踊ったり
   している。
   街の人々は、寒がりながら早足で通り
   過ぎる。
   何人かの若者やカップルは流行のバンドの
   コピーをしている少年の前で、足を止め聞き
   入っている。
   少し暗がりの通路のタイルの上で直也が座っ
   てギターを弾いて歌っている。
   しかし、直也の前には人だかりはなく、ちら
   っとも見ずに人々は通り過ぎる。
   直也、ちらっとその人だかりをみる。
   直也の耳から音が消える。

○駅ビル・中(回想)
   直也、少し暗がりの通路のタイルの上で座っ
   てギターを弾いて歌っている。
   前には高校生の女の子、2人が座っている。
   直也、1曲歌い終わる。
高校生「ゆずとか19とかやればいいのに。 
    そうしたら人も集まるよ」
直也「(さみしく)そうだね。」
   直也、次の曲の用意をする。
直也「(女の子に)ありがとう」
   直也、再び歌い出す。
   女の子2人、立ち上がって帰る。

○駅ビル・中
   直也、歌っている。
直也N「別にゆずになりたくてここにいるんじゃな
    いんだ。気持ちよく歌って、その上、お金
    なんか稼ごうなんて思っていない。みんな
    にもてようなんて思っていない。ただ、食
    事をするように、好きな歌を歌っているだ
    けなんだ」
   直也、歌い終わり、ちらっと前を見る。
   少し離れた花壇の渕に、襟と袖はウールにな
   っている白いコートを着た女の子・葵が座っ
   ている。
   葵はこっちを見ているようでもあるし、ぼぉ
   ーとしている。
   直也、葵を見て目をそらし、また葵を見る。
   直也、歌い出す。
  ×     ×     ×     ×
   コピー少年たちが帰る。
   明るい場所が空く。
   直也、そちらに移る。
   葵は前と同じようにこっちを見ているようで
   もあるし、ぼぉーとしている。
直也N「誰かを待っているのかな?」
   直也、真っ黒な空を見上げて歌う。
   直也、葵を見る。
   葵も直也を見る。
   直也、照れくさそうに鼻で笑って、2番を歌
   う。
   ギターケースにつり下げていたライブのチラ
   シがすれ違う人の通り風に、ひらりと舞い上
   がり反対側にめくれる。
   葵、両手を花壇のブロックにつけて立ち上が
   り、ゆっくりと直也の正面に向かって来る。
   葵、直也の目を見て歩いてきて、そっとしゃ
   がんでチラシを直し見上げた目で少し笑う。
   少し肩をすぼめて、
直也「ありがとう」
葵「となりに行っていいですか?」
   葵、恥ずかしそうに直也の目を覗き込む。
直也「もちろん」
   間奏が終わり、コーダ。サビ。
   そして曲が終わった。
葵「いつも駅で歌ってるんですか」
直也N「その笑顔はまるで冬のようだった。 
    ボクの表現はいつも抽象的で、一般的で、
    的外れだ」
直也「いつも練習しようと思っていて、ついさぼる
   んです。もうそろそろ帰ろうかと思っていま
   した」
   葵、笑顔のまま。
  ×     ×     ×     ×

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

まだテーマがありません

日記内を検索