男「悪い、遅れちゃって」
  真理が何か話そうとすると二人の後ろか
  ら「おそいっ」と声がする。
  シン、振り向く。
  後ろのベンチに座っていた女性が男の方
  向に体を向けている。
女「遅いっ。あんたいつも遅れるんだから」
  男、女のよこに座る。
  真理、正面を向いている。
男「悪い、ここ、久しぶりに来たから」
女「ここで待ち合わせたことあるんだ」
男「えっ...まぁな」
女「つきあってたひと?話してよ」
男「昔のことさ」
女「...」
男「分かったよ」
男「昔さぁ、5.6年前になるかな。いつも
  ここで待ち合わせている彼女がいて。お
  れさぁ、そのころバイトやってていつも
  おくれてたんだ」
女「今でもよくおくれる」
男「でも、そのコは全然怒らずにいつもニコ
  ニコ笑っててさ」
女「いまでも好きなの?」
男「まさか。で、俺さぁ。バイトの友達と賭
  けをしてさ、6時間おくれても彼女が待
  っているか賭けをしたんだ」
女「...」
男「当然、おれは待ってるほうに賭けた。で
  も彼女、その日に限っていなかった」
女「それが原因で別れたの」
男「いや、彼女とはそれ以来会わなくなって
  。向こうから電話もかかってこなくなっ
  たし。俺も何か電話しにくかったから」
女「最低。私にはそんな賭けしないよね」
男「しないよ。さぁいこうか」
  男と女、歩いていく。
  真理、ずっと正面を向いている。
シン「おい、何か言ってやれよ。どうせ聞こ
   えないけど」
  真理、立ち上がって歩いていく男に向か
  って 
真理「いままでありがとう」
  と、叫ぶ。
シン「ばかやろうとか言えよ」
真理、少し笑う。
    ×   ×   ×
  夜もすこしふけてきた。
  さすがに人通りが少なくなってきた。
  真理立ち上がる。
真理「もうここにいる必要もないね」
シン「...」
真理「あの世に行ったらあなたと観覧車で見
   たようなきれいな景色が見えるかな」
  真理、シンの前に立つ。
真理「成仏させてよ」
  シンも立ち上がる。
シン「いいの」
真理「うん...私、地獄に行くのかな?」
シン「あの世には天国も地獄もないよ」
真理「そう。今日、一日楽しかった」
  真理、ほほえむ。
シン「あの世では悪い男につかまんなよ」
真理「うん...死神さん。名前は」
シン「死神に名前はないよ」
真理「(笑顔で)さようなら、シン」
真理の頬に涙が流れる。
シン「さよなら」

 ○ ポスト
カン「だから、名前シンっていうんだ」
シン「?」
カン「死神って名前ないこと知ってた」
シン「知っててさっき聞いたの?」
カン「うん」
シン「ひねくれてるね」
カン「だから幽霊なんかになっちゃったのか
   な」
シン「...」
カン「...」
シン「幽霊が嫌いになった?」
カン「えっ、うん。そうだね、飽きた」
シン「そう」
カン「素敵なお話し、ありがとう」
シン「ああ。それじゃ帰ろうかな」
カン「私を成仏させていかないの」
シン「...それは僕の仕事じゃないよ」
カン「えっ」
シン「僕の仕事は自分で成仏できない悪い霊を
   成仏することだ。キミは悪い霊じゃなか
   ったはずだ。成仏するきっかけを探して
   いただけだろう。もうキミは自分で成仏
   できる」
カン「うん。そうする」
シン「それじゃ、さよなら」
カン「うん、ばいばい」
シン、ポストから降りる。
シン、暗がりに歩いていく
カン「シン、ありがとう」
と、叫ぶ。
  シン、手を挙げる。
【おわり】

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